大方の予想に反して、北朝鮮は、延坪島砲撃に、榴弾砲を使わずに多連装ロケット弾を使ったのだろうか。この疑問に答えるためには、今度の延坪島砲撃の「目的（狙い）」とその目的達成に適した火砲の特性は何かについて考察する必要がろう。
北朝鮮は、2010 年 10 月 10 日、朝鮮労働党創建 55 周年記念軍事ぱパレードを行ない、観閲席上に初めて金正日氏の三男 正恩氏（1983年 1 月 8 日生まれ）を立たせ、後継者として国内外に披露した。
これに先立つ、9 月28 日、朝鮮労働党代表者会において「党中央委員」に選出され、さらに同日、党中央委員会総会で、「党中央軍事委員会副委員長」に選出されている。
正恩氏は、以上のように短期間に後継者として高地位を与えられ、「朝鮮軍大将」として、いきなり世の中に姿を現しわけであるが、これまで何の実績もない。
このような北朝鮮の内政の事情を考えると、砲撃の目的（狙い）として、以下のようなことが考えられる。
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| 軍事パレードを観閲する金正恩氏と李総参謀長（MSN産経ニュース、2010.11.24） |
眼前の韓国軍の射撃訓練を実力をもって阻止し、必要ある時はいつでも行動に出ることを示す。この際、金正恩（キム・ジョンウン）の”砲術の天才”ぶりを早期に国民に示し、偶像化を図る。
① 「大義名分」(正当性)を主張できる場所（特に後ろ盾になっている中国に対して）。少なくとも北朝鮮が主張する境界線以北で、かつ北朝鮮の警告にもかかわらず韓国軍が射撃訓練を行っている場所
② 攻撃目標：北朝鮮の陸上陣地に配備している火砲で砲撃可能な韓国軍事施設、できれば射撃訓練を行っている韓国軍の砲兵部隊
① 砲撃の時期：「米韓合同軍事演習」（11 月 28 日～12 月 1 日）を効果的に牽制できること
② 砲撃の程度：絶対に戦争に発展させないこと（砲撃の時間、砲撃の目標を限定する）
③ 砲撃の成果が国内外に速やかに報道されること（砲撃時間帯、気象条件）
① 短時間に多量の火力を指向する。
② 複数の陣地から砲撃して、韓国軍の反撃を減ずる。
③ 自国（北朝鮮）の射撃陣地を標定されないように図る。
新聞（朝日、読売、１１月２４～２５日）記事のデータから、砲撃戦及びその前後の時間経過を次に示す。
＜砲撃戦前＞
・ 08:20 北朝鮮、韓国軍の黄海での射撃訓練の中止を求める。
・ 10:00 韓国軍、黄海での射撃訓練を開始
・ XX:X 北朝鮮空軍、Mig23戦闘機５機が哨戒飛行
＜砲撃戦＞
14:34 砲撃戦開始
| 表1-1 |
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15:41 砲撃戦終了
＜砲撃戦後＞
・ 15:48 韓国軍が挑発をやめるように北朝鮮に通知
・ 16:05 中国外務省報道官が冷静な対応を呼びかける
・ 18:06 青瓦台が政府声明を発表
・ 18:40 ホワイト・ハウスが非難声明を発表
・ 18:56 朝鮮中央通信が北朝鮮の声明発表（速報）
＜注：？＞韓国軍は延坪島に配備していた 155mm自走榴弾砲６門中、当初稼働可能な３門で、後に修復した１門を加えて４門で反撃したとの報道がある。また、当初、北朝鮮の発射陣地の標定に手間取って反撃開始が１３分遅れたとの報道もある。（聯合ニュース2010.11.23）
| 図1-1 BM-21 122mm自走ロケット砲 | 表1-2 基礎データ |
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・122mm ロケット弾発射筒４０連装 ・発射速度 連続発射速度 40発/20秒（斉射） 単発射撃 1発/ ５秒 ・再装填時間 10 分 ・発射準備時間 停車後 3 分 ・乗員数 5 名 ・装備数 １個大隊 18 両 |
| http://ja.wikipedia.org/wiki/BM-21 |
＜注＞ ３０連装の「BM-11 122mm自走ロケット砲」を装備している場合もある。
＜ロケット弾＞
ロケット弾には「破砕性弾頭」、「対戦車地雷散布弾頭」、「煙幕弾頭」、「対戦車子弾散布弾頭」、「成形炸薬子弾」及び「ジャミング弾」があるが、ここでは、「破砕性弾頭」の緒元のみを次に示す。
| 表1-3 122mmロケット弾（破砕性弾頭）の諸元 | |||
| 弾 種 | 9M22U | 9M28F | 9M522 |
| 重 量 kg | 66.6 | 56.5 | 70.0 |
| 全 長 m | 2.87 | 2.27 | 3.04 |
| 弾頭重量 kg | 18.4 | 21.0 | 25.0 |
| 最大射程 m | 20,380 | 15,000 | 37,500 |
| http://ja.wikipedia.org/wiki/BM-21 | |||
| 表1-4 | ||
| D-20 152mm 榴弾砲の諸元 | D-30 122mm 榴弾砲の諸元 | |
| 口 径 mm | 152 | 122 |
| 砲 身 長 mm | 5,195（２５口径） | 4.63（３８口径） |
| 乗 員 数 名 | ４ | ４ |
| 発射速度 発/分 | ５～６（最大）、１（持続射撃） | ７～８（最大）、１（持続射撃） |
| 最大射程 m | 17,400(標準榴弾)/24,000(RAP弾) | 15,400(標準榴弾)/21,900(RAP弾) |
| http://ja.wikipedia.org/wiki/D-20 | http://ja.wikipedia.org/wiki/D-30 | |
以下、続く。
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