北朝鮮の弾道ミサイルに備えて

☆☆☆ 弾道の特性 ☆☆☆

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Taepodong Missile

2 Taepodong-2

　Taepondong-2 は、開発系列上は Taepodong-1 の延長線上にあるが、Taepodong-1 に比較して、全長において約 1.5 倍、発射重量にいて約 2 倍、そして射程において約 3 倍ほど大きいとすいてされている。

　これらの寸法、重量の具体的な裏付けとして、Taepondong-2 の構成は次のように考えれている:

　第1段：Nodong ミサイル・エンジン x 4 基（クラスタ化）

　第2段：Nodong ミサイル・エンジン x 1 基

2.1 発射試験にみる弾道の特性

　北朝鮮は、2006 年 7 月 5 日に、Taepodong-2 を含む 7 発（Scud-C x3, Nodong x 3, Taepodong-2 x 1）のミサイルの連続発射試験を行った。Taepodong-2 は、約 640 [km] 飛翔して、42 秒後に失速した。この試験におけ弾道の特性は不明である。

＜2009 年 4 月 5 日の発射試験＞

　2009 年 4 月 5 日（銀河2号、光明星2号: Taepodong-2）舞水端里→日本海→秋田県（能代付近）→岩手県（普代村付近）→太平洋（三陸沖）。飛翔距離約 3,200 [km]。

　弾道の特性を下表に示す。

　　　　最大飛翔距離：約 3,200 [km]

　　　　最大弾道高：約 400 [km] （三陸上空）

　　　　最大飛翔時間：約 16 [分]

＜参考：防衛省：「北朝鮮によるミサイル発射について」（平成21年5月15日）参考資料＞

2.2 資料にみる仕様と性能

表１　資料にみる仕様と性能
資　　料→	Missile Index	Wikipedia
全　　長 [m]	33.3 (1段 17.8、2段 15.5)	35.8
直　　径 [m]	1段 2.2、2段 1.35	2.0 - 2.2
発射重量 [kg]	64,300	79,189
射　　程 [km]	3,500 - 6,400	4,000 - 6,000
推進装置　(注)	2段式液体燃料(ケロシン)	3 Stages,Liquid
ペイロード [kg]	700 - 1,000	700 - 1,000

(注) 推進剤：燃料ケロシン（TM-185）、酸化剤　硝酸（Ak-271）

　　　 燃焼時間（Burn Time): 各 Stage とも100 [s] + 、合計 5 - 6 [分]。

2.3 弾道計算のためのパラメータ設定

　最初に、「憂慮する科学者同盟」（Union of Concerned Scientists; UCS）の論文：

"An Analysis of Korea's Unha-2 Launch Vehicle"; By David Wright, March 20, 2009

が、示しているデータ考慮して、パラーメータを設定する。

　本論文は、2009 年 3 月 20 日に発表されたもので、当然、同年、4 月 5 日に行われた発射試験の結果は反映されていない。ただし、北朝鮮が、事前に予告した、第 1 段、第 2 段のロケットエンジンの落下地点及び人工衛星（「光明星2号」）の軌道（Orbit）のデータは考慮されている。

　予告落下地点（Public Hazard Zone）

　　第 1 段：発射基地から 500 - 750 [km]、（発射試験の結果： 540 [km]）

第 2 段：発射基地から 3,150 - 3,950 [km]、（発射試験の結果：3,200 [km]）

　予告 Orbit：

高度 400 - 500 [km] 円軌道　（計算される軌道速度：7.62 - 7.67 [km/s]）

　最初に設定するパラメータは次のとおりである。

表２　弾道計算のためのパラメータ
Parameter	Unit	Stage 1	Stage 2	Stage 3
Initial Velocity	m/s	0	-	-
Delay Before Ingition	s	0	0	0
Burn Time	s	120	110	40
Stage Dry Weight	kg	5,934	2,111	200
Stage Fueled Weight	kg	65,934	11,111	1,000
Isp Stage	s	225	255	270
Stage Diameter	m	2.25	1.3	1.0
Fairing Mass and Eject Time	400 [kg], 180 [s]

表2 から計算される、推力、加速度及び速度等（重力損失、空気抗力損失等を除く）

（１）推力（= 推進剤質量流率[kg/s] x Isp [s] x g [m/s²]）

　　Stage1: (65,934 - 5,943)/120 x 225 x 9.8 = 1,102,500 [kN] = 112.50 [tf]

Stage2: (11,111 - 2,111)/110 x 255 x 9.8 = 204,464 [kN] = 20.86 [tf]

Stage3: ( 1,000 - 200)/ 40 x 270 x 9.8 = 52,920 [kN] = 5.40 [tf]

（２）加速度（= 推力/機体質量、　ペイロード 1,000 [kg] を想定）

　　Stage1 初期：112.50 / 79.445 = 1.42 [G] = 13.9 [m/s²]

末期 : 112.50 / 19.445 = 5.79 [G] = 56.7 [m/s²]

Stage2 初期： 20.86 / 13.511 = 1.54 [G] = 15.1 [m/s²]

　　　末期： 20.86 / 4.111 = 5.07 [G] = 49.7 [m/s²]

Stage3 初期： 5.40 / 2.000 = 2.70 [G] = 26.5 [m/s²]

　　　　　　 末期：　5.40 / 1.200 = 4.50 [G] = 44.1 [m/s²]

（３）増速度（= Isp x g x ln(1/MR; MR: 質量比、ペイロード 1,000 [kg] を想定）

　　　初速：地球の自転による初速については計算プログラムに組み込まれている。

　　　Stage1 による増速：

225 x 9.8 x ln( 79.445 / 19.445 ) = 2,205 x 1.407 = 3,103 [m/s]

Stage2 による増速：

255 x 9.8 x ln( 13.511/ 4.111 ) = 2,499 x 1.190 = 2,973 [m/s]

Stage3 による増速：

270 x 9.8 x ln( 2.000/ 1.200 ) = 2,646 x 0.511= 1,352 [m/s]

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　合計 = 7,428 [m/s]

（４）推進剤充填率（= 1-Stage Dry Weight / Stage Fueled Weight）

　　　Stage1: 1 - 5,934 / 65, 934 = 1 - 0.09 = 0.91 (注)

Stage2: 1 - 2,111/ 11,111 = 1 - 0.19 = 0.81

Stage3: 1 - 200 / 1,000 = 1 - 0.20 = 0.80

　　(注) この値は大きすぎる。高々 0.85 程度と推定される。これについては別ページで言及する。

2.4 Taepodong-2 の弾道の特性

＜注＞　以下の弾道特性は、北朝鮮が、Taepodong-2 の発射試験に成功して開発が完了したものと仮定した場合の特性である。

2.4.1 ペイロード対射程

図１　Taepodong-2: ペイロード対射程

　図１に、東向き（Launch_Azimuth_90°）及び南向き（Launch_Azimuth_180°）に発射した場合の、ペイロードに対する射程と、両者の差を示す。

　「東向き」と「南向き」の射程の差はおよそ射程の １０％ ほどである。例えば、射程 7,000 [km] 付近では、両者の差は、700 [km] 程度になる。

　北朝鮮（舞水端里）から、ハワイ（真珠湾；米太平洋軍司令部、21°21' 33" N, 157°57' 07" W）までの距離（7,023 [km]）を示してある。図１から、ペイロード=700 [kg] 以下であれば、この射程を満足していることがわかる。

2.4.2 ペイロード 1,000 kg における弾道

　以下、Payload = 1,000 [kg] 、Launch Azimuth = 90°における最大射程を示す。このシミュレーション・プログラムにおいて、最大射程を満たす、Loft Angle は 35.0315 [deg]、Loft Angle Rate は、0.78855 [deg/s] である。

図２　飛翔時間対飛翔距離

最大射程 = 6,034 [km]、飛翔時間 = 1,468 [s]（24' 28"）

図3　飛翔時間対飛翔高度

最大弾道高 = 839 [km], at Time = 818 [s]

図4　弾道側視図

Loft Angle = 35°のとき、射程は最大になる。

図5　飛翔時間対加速度

Boost Phase: 最大加速度 Stage1: 5.09 [G]、Stage2: 4.50 [G]、Stage3: 3.96[G]

Terminal Phase: 最大加速度（減速）= 47.58 [G]、高度 = 5.341 [km]

図6　飛翔時間対飛翔速度

Boost Phase: Stage1最大速度 = 2.199 [km/s]、高度 = 39.40 [km]

Stage2最大速度 = 4.571 [km/s]、高度 = 159.97 [km]

Stage3最大速度 = 5.740 [km/s]、高度 = 236.05 [km]

Terminal Phase: 最大速度 = 6.050 [km/s]、高度 = 41.30 [km]、時間 = 1,449[s]

落達速度 = 2.054 [km/s]（空気抗力によって、6.050 → 2.054 [km/s] に減速）

図7　ブースト・フェース：飛翔時間対飛翔速度・加速度

　各段の加速度及び速度を、前述の各種損失を無視した「計算値」と比較して示す。

表３　各 Stage における加速度・速度
Stage	加速度 [G]			速度 [km/s]
Stage	計算値	グラフ値	差	計算値	グラフ値	差
1	5.79	5.09	0.70	3.103	2.199	0.904
2	5.07	4.50	0.57	6.076	4.571	1.505
3	4.50	3.96	0.54	7.428	5.740	1.688

2.4.3 北朝鮮（舞水端里）からハワイ（真珠湾）に向かう弾道

図8　「Google Earth」上に表示した弾道

　北朝鮮（舞水端里）からハワイ（真珠湾）に向かう弾道は、図8に示すように、高Loft角（Hi_Loft_Angle）で発射した場合、北海道の北部を、また、低Loft角（Lo_Loft_Angle）の場合、北海道の南部を横断する。舞水端里からの、それぞれ地域に至る距離は、約 1,100 [km] 及び 900 [km] である。