脅威に対する数理的アプローチ

北朝鮮の「火星12」に迫る

北朝鮮ミサイル発射試験速報！！

1 着弾点：　

　飛翔距離：2700 [km]    最大弾道高：550 [km]   飛翔時間：14分

図１　ペイロード対射程・最大弾道高

図２　ペイロード対射程・飛翔時間

　今月の上中旬、朝日テレビとTBS で報道番組関係の諸氏と「火星12」について、話し合う機会を得たが、そのとき、北朝鮮が、いつ日本列島を超えてフルレンジの発射試験するかが、私の最大の関心事であり、早晩、それは実行されるであろうと、理由をつけて話した。

　「火星１２」のフルレンジは、上図に示したように、概略、3,000 [km] - 5,000 [km] とみられるが、試験された部分は、レンジ（射程）の下限の射程である。

　一般に、上図のように、理論的にグラフが描がかれ、射程確認だけの試験であれば1点ないし2点の試験で十分である。

　北朝鮮は、ルビコン越えは決心していたが、いつ、どの方向に向かって日本列島を超えるかについては、熟慮したであろう。Guam 向けは、陽動である。あからさま過ぎる。

　「正を以て会い奇を以て勝つ」（孫子）である。3日前の旗対嶺（キッテリョン）から短距離ミサイルの発射はジャブか。「火星12」の性能確認試験は計画に乗って着々と進められているように思われる。

　発射試験の対象射程が、レンジの外れのように見えるが、初めての日本列島越えであるため、様子見のために、遠慮したようにも思える。また、この飛翔コースは、Hawaii コース（「ハワイ航路」？ 約 7,400 [km]）であるから、過度に米国トラン大統領を刺激しないことも考慮したかどうか。

　終末段で、3部分に空中分解して、失敗したかのようにみる向きもあるが、1段ロケットでは、必ずしも、燃焼完了時に1段を切り離す必要はない。再突入過程で、各部の弾道係数の違いによって自動的に分離して地上に落達する。

２　Google Earth 上に飛翔経路を示す

（１）北朝鮮（順安）から Hawaii に至る弾道（Hawaii コース）

　　順安（スンアン）空港（39°08' 39.49" N  125°48' 16.31" E） - Hawaii Hickam 米空軍基地（21°21' 33" N  157°57' 07" W） 　2地点間の距離：7,386. 38 [km]。

図３　Hawaii コース

　北朝鮮の金委員長は、今後このコースを使って、太平洋に進出してミサイルの発射訓練を継続すると公言している。

（２）今回（2017/08/28）の発射訓練の弾道

　　着弾点の位置（緯度・経度）が不明なので、順安 - Hawaii 間の方位（Asimuth 81.0401°と観測された順安から着弾点までの距離（2,700 [km]）を使って弾道を表示した。

図４　発射訓練と称する弾道

図５　発射訓練と称する弾道（拡大図）

　　順安から渡島半島西岸（江差町）及び襟裳岬までの距離はそれぞれ、1,248 [km] 及び1,506 [km] である。

３　弾道の特性

　　ここでは、射程 を 2700 [km] として、飛翔時間、弾道高度及び飛翔速度等を分析する。

（１）射程 2700 [km] の最少エネルギー弾道（Minimum Energy Trajectory; MET）

  　　EMT は、真空における、理想的な弾道であるが、分析のベースになる弾道である。

図６　火星12発射訓練の弾道特性（EMT）

　　眞空弾道に対して、大気通過弾道は、IRBM では、飛翔時間において、１～2分遅れ、弾道高において、10 % 低くなる。この原則に従えば、飛翔時間は、15 分（900 秒）、最大弾道高は、500（㎞）程度と推定され。

　　これに対して、公表値は、14分、550（㎞）で、違いが大きすぎる。むしろ、真空弾道をそのまま適応した方が合致している。

　　発射試験弾において、再突入時に、3部分に分離して落達した影響と、対象物が正確に追尾されたか疑問が残る。

　　通過弾道下にある住民の方々にとっては、通過時期と高度等が、具体的にイメージできることが、重要ですので、観測値に合わせて、上図を修正したグラフを次に示します。なお、今後、発射訓練等の結果を反映させて、修正していきます。

図７　火星12の発射訓練の弾道（推定値）

　次に、飛翔速度特性を示します。弾道高度を修正したため、速度も修正しています。最少エネルギー弾道（MET）は、真空中で、０秒時にインパルス的に所要の速度が与えられるので、感覚的になじめません。図８の次の図９で、大気通過弾道の速度特性を示します。

図８　火星12発射訓練弾の飛翔速度

　《参考》　下図に、「火星12」において、ブースト時間 185（3分5秒）、弾頭重量 1100[kg] で発射し、射程約 3000 [km]、最大弾道高約 550 [km] が得られたシミュレーション結果示します。

図９　「火星12」を弾頭重量 1,100 [㎏] で発射した場合の飛翔速度特性

 （２） まとめ