脅威に対する数理的アプローチ

北朝鮮の「火星12」に迫る

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第5章　新たな知見のもとに「火星12」を見直す

 5.1 「火星12」発射試験位置づけ

 　「火星12」は、推定射程から、明らかに「Musudan」（「火星10」）の後継弾道ミサイルである。Musudan は、旧ソ連の「R-27」潜水艦発射弾道ミサイルを元に開発が進めらてきたが、筆者が、2013年3月に「Musudan は発射されい」で論じたように、Guam を攻撃するには、力不足だった。その後、2016 年に至って、初めて、一連の　Musudan の発射試験を始めたが、6回の発射試験は、悉く失敗に終わった。

　Guam のアンダーセン基地（Andersen Air Foece Base；ピョンヤンから距離約3,500km）は、執拗なMusudan発射試験を見ても、北朝鮮にとって、喫緊の対米攻撃目標であることがわかる

 　2017 年 5 月 14 日の「火星12」 の発射試験の結果は、間接的に。内外に、Guam 攻撃のポテンシャルを保有したことを示したことに最大の意義がある。

　北朝鮮は、周囲を大陸と他国の領海に囲まれているから、中距離弾道弾（IRBM; 射程2,000～6,000 km）をフルレンジで発射試験を行う可能性は低い。その点、大陸間弾道弾（ICBM）であれば、例によって、人口衛星の打ち上げに名を借りて発射試験を行うことができる。

　前章までは、エネルギー最少弾道（Energy Minium Trajectory; EMT）をベースに「火星12」の弾道を分析してきた。その結果、これまで、「Wikipedia」等で設定されてきた信頼性の低い Musudan の諸元（重量12,000kg, 全長12.5m, 直径1.5m, 射程3,200-4,000km, 弾頭質量650-1,200kg, 液体ロケットエンジン, 推進剤UDMH/IRFNA）に代わって、Evidence をもって、射程4,000-4,500 km が示されたので、ここでは、「火星12」の新たなモデルを設定して。標準大気環境下に弾道を算定しなおすことにします。

5.2 「火星12」のモデル設定

　「火星12」は、Musudan（発射質量16-20トン）をベースにロケとエンジンに改良を加えたバージョンであるので、その発射質量を 23トン ,に設定することとした。また推進剤については。ロケットエンジンが1段液体型であることから、UDMH/RFNA とし。その充填率を 93%、比推力を 285 秒とした。その細部については、本ウェブサイト「Musudanの最大射程の検討」を参照してください。

                                           （注）Unsymmetrical DiMethylHydrazine / N204=四酸化二窒素

　5.3 「火星12」の発射シミュレーション

　１　誇示が招いた手の内

　朝鮮中央通信は、2017/08/10、朝鮮人民戦略軍司令官が、「米国に厳重な警告を送るため」として、「火星12」4 発を米国 Guam 島周辺に同時に発射することを慎重に検討していると発表したと報じた。 　具体的には、同通信によると、ミサイルが発射されれば、① 日本の島根、広島、高知県の上空を通過し、② 3356.7 [㎞] を、③ 1065秒（17 分 45 秒）間飛翔後、④ Ｇｕaｍ 島周辺 30 - 40 [㎞] の海上に着弾することになるという。

 （１） ペイロード（弾頭重量）対射程・飛翔時間

　実戦上の弾頭質量（Payload; 「PL」と略記）は、500  - 1,000 {㎏]と想定されるから、火星12 の射程は、3,000 - 4,000 {㎞] と見なしてよいであろう。

　発射試験の直後「火星12」の射程に対する韓韓国国防省等による評価では、

PL= 1,000 [kg] …… 3,000 [km];    PL = 500 [kg] ……5,000 [km]

    であったが、この数値は、脅威を煽るための Over Estimate である。

図5-1-A  ペイロード対射程・飛翔時間

　Payload 範囲を 500 - 1,000 [kg] に絞って、上図を拡大表示する 　　

図5-1-B  ペイロード対射程・飛翔時間（拡大図）

 　　上図の射程「GUAM」は、北朝鮮「新浦」からGUAM までの距離（3356.7 [km]）である。この値とグラフ上の射程曲線との交点を下方に下すと Payload（弾頭重量 810 [kg]）が求まる。

　　また、この Payload 値と飛翔時間曲線との交点を右軸の飛翔時間で読み取ると飛翔時間（1045 [s]）が求まる。この値は、北朝鮮の発表した値（1065 [s]）より 20 秒早い。この時間を満足する Payload は、約 790 [kg] であるから、Payload を約 20 [kg] 軽くしてシミュレートしたことになる。

（２） ペイロード対射程・最大弾道高

図5-2-A  ペイロード対射程・最大弾道高

Payload 範囲を 500 - 1,000 [kg] に絞って、上図を拡大表示する

図5-2-B  ペイロード対射程・最大弾道高（拡大図）

　　GUAM に到達する最大弾道高は、600 [km] 台と計算される。

（３）北朝が公表した射距離（3356.7 [km]）を最大射程とする Payload（弾頭重量）の決定

　　私の使用していいる弾道計算ソフト（GUI_Missile_Flllyout）は、新浦から Guam までの射距離を、3364.2 [km]と計算することを考慮して、その値を満足る Payload を求めると、809 [kg] が得られた。

　　私のモデルでは、Payload 809 [kg] が、新浦から Guam に運べる、最も重い重量となるので、この値の弾頭を搭載して飛翔させた場合のミサイルの弾道を「最大荷重弾道」と呼ぶことにする。

　以下に、新浦から Guam に向かう「最大荷重弾道」の特性等を示す。

図５－３　新浦から Guam に向かう弾頭

図５－４　射程に対する弾道高・飛翔時間

図５－５　飛翔時間に対する弾道高度・射程

図５－６　射程に対する速度・加速度

　（４） 射程 1000 [km]付近までを拡大表示

　　　北朝鮮新浦基地から発射され Guam に向かう弾道は、我が国の中国・四国上空を通過するので、その付近までの弾道特性を拡大表示する。

　　（注）下図では、中国・四国上空に対応する射程又は時間帯を赤い透明色で塗っています。

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