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3.1 発射の山場は過ぎた。
Space Daily.com (2013. 04. 22)によれば、北朝鮮は、これまで元山周辺に移動させた発射準備とみられるミサイル発射機にさらスカッドを増強しているという。
そして、今後、発射が予想される節目を次のように見積もっている：
① ４月２５日：北朝鮮人民軍創設記念日
② ４月３０日：米韓合同軍事演習「フォールイーグル」終了
③ ７月２７日：朝鮮戦争「休戦協定」締結記念日
・発射次期が長引けば、その威嚇・挑発の賞味期限が切れよう。
・Musudan を除く、スカッドやノドンなど既存のミサイルを多数連続発射しても、それらは、どこの国の軍隊でも行ってる練度維持のための単なる実弾射撃訓練に過ぎない。
・したがって、多数弾を打つにしても、発射試験を行うには、Musudan を含めなくては、北朝鮮にとって意味がない。
・Musudan の能力は、2.3 節で示したように、ペイロード質量 650 - 1,200 [kg]、射程 2,500 - 4,000 [km] といわれている。
・Musudan は、1992 年、旧ソ連潜水艦発射弾道ミサイル（SLBM）「R-27」( SS-N-6 )の 技術を学び取って開発した弾道ミサイルで、上に示した射程は、「Jane' s Weapon System」誌が、「R-27 」について示している値と同じである。
・その後、多くの資料やメディアは、Musudan の射程を 2,500 - 4,000 [km] としてるが、最近の米国の Web-Page では、3,000 - 3,500 [km] をとっているサイトも多い。（「The Aviationist」、「Huffpost World」、「worldnews.nbcnews.com」など）
・Musudan の射程について分析した文献は見当たらない。上のあげた射程 3,500 [km] という値は、北朝鮮が Guam の米軍基地を攻撃できるぎりぎりの射程であることを考えると、意図的に推定した値とも取れる。(注)北朝鮮舞水端里ミサイル発射基地 - グアム米空軍アンダーセン基地間の距離 3,376 [km]。
・かかる背景のもとに、北朝鮮が Musudan の発射試験を行うとすると、結果として、射程 3,500 [km] 以上を期待できることが保証されるものでなければならない。
3.2 Musudan は発射されない
・Musudan は既に、射程 2,500 - 4,000 [km] と喧伝されていて、日米の脅威となっている。この脅威と発射の挑発に対して、日米韓は、軍事的な防衛策を講じるとともに外交努力を進めてきた。
・Musudan は、発射試験を行うまでもなく、その威嚇度を示す効果を上げている。北朝鮮の望んでいることは、威嚇で功を奏することであって、実際に攻撃したり、ましてや戦争を仕掛けたりすることではない。
・北朝鮮は、これまで、人工衛星打上げの名のもとに Taepodong の発射試験を繰り返してきた。その狙いは、米国本土攻撃能力を世界に認めさせるためのものであった。
・Musudan は、発射試験を行う前から、Guam を攻撃する能力があると認めれている。この意味で差し迫った発射試験の必要性はない。
・ただし、北朝鮮としては、できれば、Musudan の性能を確認しておきたいところであろう。なお、2005 年にイランに 18 発のMusudan が輸出され、翌年 2006 年に発射試験が行われ、2,500 [km] 以上飛翔したとされている。
・北朝鮮が発射試験を行うとすれば、射程 3,500 [km] 以上が確実に望めること、及び発射試験の名目が必要であるが、現時点で両者を満足することは困難である。
・発射試験は、Taepodong で見てきたように、幾多の段階を経て、完成弾の発射試験に至る。
・Musudan の最大射程については、次節で検討するが、3,500 [km] を超えるのは容易ではない。
・以上のことを考えると、Musudan の発射試験はない と思われる。
・Musudan の最大射程については前のページ（2.3 節）で、比較的小さい値の例として、2,600 [km] を示した。この計算の前提となるパラメータは、表１（発射質量(LW)=20 [ton], 推進剤充填率(ζ)=90 [%], 比推力(Isp)=260 [s], ペイロード(PL)=650 [km]）に示したとおりである。
・Musudan の最大発射質量(LW)は 26 [ton](=26,000 [kg]) と見積もられているので、ペイロード(PL) を 650 [kg] に抑えて、ロケット本体部の質量を 23,350 [kg] まで増大させて、最大射程が 3,500 [km] を超えるよに他のパラメータを設定し直してみる。
・最大射程に影響を及ぼす主要なパラメータは、推進剤の「比推力(Isp)」 及び「充填率(ζ)」である。
・「比推力(Isp)」は与えられた条件下で推進剤の性能の良さを示す指標で単位は、[s] である。一方、「推進剤充填率(ζ)」は、ロケット本体の質量を構造物と推進剤に分けた場合、推進剤の質量の比率を示している。なお、前頁の表１では構造物の質量を「Dry Weight (空虚質量)」としてし示している。
・Musudan の推進剤は、酸化剤として「IRFNA」( Inhibited Red Fuming Nitric Acid)
、燃料として「UDMH」(Unsymmetrical Dimethyl-Hydrazine) を使用している。比推力(Isp)は、混合比 3.12、燃焼温度 3,250 [°K] 、真空中において、329 [s] である。（参照：Sutton, G.P.:"Rocket Propulsion Elements, An Introduction to the Engineering of Rocket" J0hn Wiley & Sons, 1992）。第１段エンジンは、高度 80 [km] 以下で使用されるから、Isp の値は、真空中の値の 80 - 85 % の値になろう。
・従来ロケット本体の部材にスチールを使用していたときの推進剤充填率は、80 % 台と見積もらていたが、昨年末発射された銀河３号の第１段ロケットエンジンの回収残骸からアルミニウム・マグネシウム合金が使われていることが判明したことから、85 - 90 % 程度の充填率も想定可能である。
・以上のことを考慮して、射程 3,500 [km] を超えるパラメータとして次の２案を示してその弾道の特性を示す。
| 表１ Musudan 最大射程検討のためのパラメータ設定 | ||||
| Parameters | Value-1 | Value-2 | Note | |
| Burn Time | s | 100 | ← | |
| Stage Dry Weight | kg | 2,281 | 2,028 | 構造体質量 |
| （推進剤充填率） | % | 91 | 92 | |
| Stage Fueled Weight | kg | 25,350 | ← | ロケット部全質量 |
| Isp Stage | s | 275 | 265 | |
| Stage Diameter | m | 1.5 | ← | |
| Launch Site Latitude | deg | 40.8558 N | ← | 舞水端里発射場 |
| Launch Site Longitude | deg | 129.6661 E | ← | |
| Lauch Azimuth | deg | 90 | ← | 東向き |
| Payload Mass | kg | 650 | ← | |
・上表に示したように、「Value-1」と「Value-2」の違いは、前者では、充填率を 91%にとどめて、Isp を 10 [s] 大きくしている。後者はでは、充填率を 92% に大きくして、そのかわり Isp を 10 [s] 小さく抑えていることである。
・最大射程の計算結果は、ペイロードを 650 [kg] として、「Value-1」：3,614 [km]、「Value-2」: 3.628 [km] で、ほぼ、同程度の値が得られた。
・第１段のロケットエンジンとして、比推力(Isp)と推進剤充填率(ζ)との組み合わせた値（275[s], 91[%] ）、（265[s], 92[%] ）を満足するエンジンは、北朝鮮にとってこれまでにない、ハイレベルな値である。
・以下に、（275[s], 91[%] ）をとった場合の弾道の特性を示す。
| 図１ ムスダン： 飛翔時間対飛翔距離 |
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| 表２ ムスダン： 飛翔時間対飛翔時間 |
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| 表３ ムスダン：飛翔距離対飛翔高度（弾道側視図） |
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| 図４ ムスダン： 飛翔時間対加速度・飛翔速度 |
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・Musudan のペイロードを 650 [kg] から最大の 1,200 [kg] に増加した場合の最大射程(下限)の計算結果は、2,950 [km] である。
・最大射程の上限の値は、ペイロードを 650 [kg] として、約 3,600 [km] と計算されているから、射程の範囲は、3,000 - 3,600 [km] となる。
・ペイロードを 650 [kg] として、舞水端里から Guam 方向 ( Launch Azimuth = 149°)に発射射した場合の最大射程は、約 3,540 [km] になる。
・以上、表１のパラメータに基づいて計算された結果は、先に挙げた最近の米国の Web-Page 上に示されている射程 3,000 - 3,500 [km])にほぼ一致している。このことは、米国の Web-Media は、表１に示すハイレベルのロケットエンジンを想定している証左ともいえる。
・『孫子（謀攻篇第1・2）』に曰く、「凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るはこれに次ぐ、・・・、戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。故に上兵は謀を伐つ。其の次は交を伐つ。」
・現時点で、日米韓によって評価の定まっている Musudan を、危険を冒して敢えて試験する必要性はない。
・この方針は、三月時点ですでに決まっていた。それは、この間の、常軌を逸し戦理を無視した挑発が端無くも示してている。
・ただし、北朝鮮は、「人の兵を屈する」までに至っていない。すなわち、米国と対等の地位を以て交渉するに至っていない。このため、今後、「核保有国」の公認を狙って、あらゆる術策を弄するであろう。
・「SPACE DAILY(spacedaily.com) 」、Washigton (AFP), May 6, 2013 :
"N. Korea removes missiles launch site: US officials" と題する記事の中の最後の部分で、
・A Musudan missile has an estimated range of about 400 (640 kilometers) to 3,500 miles (5,630 kilometers), according to military officers.
と軍幹部が Musudan の射程を過大に推定しているのに対して、
・Analysts have disagreed about the missile's capabilities and believe Pyongyang has never tested the weapon in flight.
アナリストは、筆者と同様、軍の推定値を否定して、ピョンヤンは絶対に発射試験を行わないと信じている。
（以下、続く）
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