第６章　"Guam Killer" DF-26 (IRBM)

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６.1　はじめに

図６－１　　DF-26 （2015_09_03, Parade in Beijing）

・中国は、2015 年 9 月 3 日、抗日勝利記念70周年記念軍事パレードにおいて、最新の兵器技術を盛り込んだ "Carrier Killer" （空母キラー）、"Guam Killer" の異名をとった兵器を公開した。

・全部で6種類の弾道ミサイルが公開されたが、前章で示した DF-21 の派生型「DF-21D」（対艦弾道ミサイル）、「DF-26」（MRBM）及び「DF-5B」（ICBM）がパレードのハイライトであった。

・8月下旬に行われたパレードのリハーサルを取材した「IHS Jane'360」の記事は、「多分、最も人目を引いた啓示（revelation）は、DF-26 3,000 - 4,000 km IRBMであったであろう」と、「開示」（unveil）を使わずに神がかりな用語を使っている。

・パレード中の公式解説で示されたこと：① 路上移動性　② 非核/核弾頭　③ 個体ロケｯトエンジン　④ 対艦攻撃可能弾

・その後、2年8か月を経て、中国は、2018_05_10 、陸・海上基地目標に対する精密攻撃を可能とする新しい IRBM が、ロケット軍に配備完了したと発表した。

・DF-26 の出現は、第２列島線の要である Guam を制することによって、同列島線にかかる "A2/AD" のステップを完成させる可能性を秘めている。当面、第１列島線内にある南シナ海における米軍とのパワーバランスを変えることを狙っている。

・路上移動性と関連して、発射前の標定・同期も完全自動化が進んでいるようだ：① 移動即発射のために事前の測地不要　② 発射場所に関する厳しい制約なし　③ 迅速な…展開・発射・戦闘単位の転移

６.２　仕様等

　・全長：14 m　・直径：1.4 m　・重量：20 ton

　・弾頭：核（3弾）、非核、質量1,200-1,800 ㎏、HE（高性能爆薬）、EMP（電磁パルス）、ASAT（衛星攻撃）

　・推進方式：2 段個体燃料

６.３　弾道シミュレーション

(1)　パラメータ設定

　・弾頭質量1,200-1,800 ㎏ に対応して、概ね、最大射程 4,000 - 3,000 ㎞ を満足するようにパラメータを設定すると下表のようになる。

　・表において、質量比（「Stage Dry Weight」/「Stage Fueled Weight」）を 0.1（10%）に設定している。

（２）細大射程

図６－２　　弾頭質量に対する細大射程

発射地点：懐化（27°26’20.88"N、109°42' 9.16"E）、発射方位 105.6934°

図６－３　　弾頭質量に対する飛翔時間・最大弾道高

　・発射地点 湖南省「懐化」からGuam（Andersen AFB）までの距離は約 3,960 ㎞ で、図6－２から、標準弾道の弾頭質量は、約 1,240 ㎏である。　

　・図５－３ から、発射後、最大弾道高 720 ㎞ に達し、1140 秒（19 分 00 秒）後に、Guam 米空軍基地に着弾する ことになる。

　・MET（真空弾道）による推定値：最大弾道高 820 ㎞、飛翔時間 1065秒（17 分 45 秒）で、前述したように実弾道に対して、最大弾道高は、15 % ほど高く、飛翔時間は、10 % ほど短くなっている。

６｡4 Guam に至る弾道

　・ここでは、DF-26 について、第3章（図3-2）に示す第55軍基地（湖南省懐化）から Guam に至る弾道を想定して分析する。

（１）弾道高・飛翔時間

・標準弾道（弾頭質量 1,237 ㎏）における弾道高と飛翔時間を下図に示す。

図６－４　　標準弾道における弾道高・飛翔時間

・発射地点から Guam AFB（Air Force Base） に至る射程は、3,960 ㎞、飛翔時間は 1,145 s（19 分 5 秒）である。

・最大弾道高は、射程の中点（1,980 ㎞）において 721 ㎞ である。

（２）飛翔速度・加速度

・飛翔時間に対する飛翔速度及び加速度を下図に示す。

図６－５　　飛翔速度・加速度

・第1段ロケットによって飛翔速度は、2.16 km/s（高度38 km）に加速され、さらに第2段ロケットにより最大速度 4.93 km/s（高度 195 km）に達する。

・その後、最高点（721 km 楕円の遠地点）に向かって速度を減じて、最少速度 3.93 km/s（飛翔時間 623 秒）に至る。

・降弧に変わって、飛翔速度は、増加に転じ、昇弧において最大速度を示した高度（195 km）で、再び同一の速度（4.93 km/s）に至り、じ後、さらに速度を増して、大気層に再突入する。

（３）終末弾道

・ここでは、THAAD（Terminal High Altitude Air Defense）によって迎撃することを想定して、高度 200 km、射程 300 km 付近の終末弾道を分析する。

・終末弾道の座標原点（0, 0）は、弾道ミサイルの着弾地点（Guam）としている。

＜３-１＞弾道高・到達時間

図６－６　　終末弾道：弾道高・到達時間

・終末弾道は、直線的になり、標準弾道における再突入角は 31°である。

・交戦可能時間は、予想到達時間「 50" - 18"」の 32 秒である。

＜３-３＞飛翔毒度・減速度

図６－７　　終末弾道：飛翔速度・減速度

・弾道高 40 km 付近で飛翔速度は最大になり、以降、空気抗力による減速度が効いてきて、減少に転ずる。

・迎撃可能高度における飛翔速度は、5.0 - 5.2 km/s （約 15 マッハ）であり、現用の THAAD では迎撃不可能である。

（４）「標準弾道」、「Lofted 弾道」 及び 「Depressed 弾道」の3弾道

・「標準弾道」は、発射地点から Guam に至る弾道の内、最大質量の弾頭（1,237 kg）を投射できる弾道である。

・「Lofted 弾道」及び「Depressed 弾道」は、標準弾道より弾頭質量を軽くして（ここでは、1000 kg）、得られた余力を使って「Lofted 弾道」の場合は「高空低速の弾道」に、「Depressed 弾道」の場合は「低空高速弾道」に変換した弾道である。

＜４-1＞ 「Google Earth」上に描画

・最初に「Google Earth」上示す。

図６－８－１　　3弾道を地表面に投射した弾道軌跡

・弾道軌跡は、台湾上空を飛翔して、Guam に至る。

図６－８－２　前図を立体視化した場合の3弾道

＜４-２＞　弾道側視図

・弾道を、射距離と高度の2次元座標に表示したグラフを「弾道側視図」と呼ぶ。

・次図に、標準・Lofted・Depressed 弾道の弾道側視図を示す。

図６－９　　標準・Lofted ・ Depressed 弾道

・最大弾道高は、低い順に、Depressed: 612 km 、標準：721 km 、Lofted: 1,403 km

・発射角（Loft Angle）は、低い順に、Depressed: 14.57° 、標準：38.12°、Lofted: 52.36°

＜４-３＞ 飛翔速度 対 飛翔時間

・飛翔時間に対する飛翔速度を下図に示す。

図６－１０　　3弾道の飛翔速度

・飛翔時間は、短い順に、Depressed: 1070 s 、標準:1145 s：、Lofted: 1543 s

・上昇時最大速度、小さい順に、標準：4.93 km/s、Depressed: 5.02 km/s、Lofted: 5.05 km/s

・下降時最大速度、小さい順に、標準：5.22 km/s、Depressed: 5.35 km/s、Lofted: 5.47 km/s

＜４-４＞ 終末弾道

・3弾道の終末弾道を次図に示す。

・現有 THAAD の迎撃可能高度は、40 - 150 km、射程（Downrange）上は、200 km である。

図６－１１　　3弾道の終末弾道

・高度 150 km から予想弾着点（0, 0）への到達時間は短い順に、Lofted: 30 s 、標準: 60 s、Depressed: 71 s

・再突入角は、大きい順に、Lofted: 48° 、標準: 31°、Depressed: 26°　である。

＜４-５＞ 終末速度

・3弾道の終末速度を下図に示す。

図６－１２-1　　3弾道の飛翔速度 対 弾道高度

・飛翔速度が最大値に達する高度は、低い順に、Lofted: 38.6 km （5.47 km/s）、標準：40.9 km （5.22 km/s）、Depressed: 45.2 km（5.35 km/s）である。（）内の赤色数値は最大速度。

・以上のことから、空気抗力が、実効的に効いてくる高度は、概略、40 ㎞ であることがわかる。

図６－１２-2　　飛翔速度 対 Downrange

・飛翔速度が最大値に達する Downrange は、低い順に、Lofted: 34.6 km （5.47 km/s）、標準：64.0 km （5.22 km/s）、Depressed: 86.3 km（5.35 km/s）である。（）内の赤色数値は最大速度。

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